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2021年
- 2月の1首
さわやかに目が覚めていくわが視野にハミングバード入りて羽ばたく
- 1月の1首
スタジオのタップレッスンカッカッとコロナ退治の勢いでする
2020年
- 12月の1首
Zoomではどういうわけかつまらないタップダンスの週一レッスン
- 11月の1首
なんとなく軟禁されているような 外出阻むコロナウィルス
- 10月の1首
知り合いも近所の人も静かなりウィルス感染なければよろし
- 9月の1首
サングラス忘れて街を歩きたり激しき頭痛に半日つぶれる
- 8月の1首
モルダウのメロディー低く流れきて朝の目覚めを華やかにする
- 7 月の1首
モナリザの前に群がる人多く人員整理のロープまである
- 6 月の1首
「微熱では薬はいらない」医師の言うカナダの医師は合理的なり
- 5 月の1首
幸せは前ぶれ無しにやってくる小さな幸せ運びくる鳥
- 4 月の1首
寝る前にジャンクフードを食べてみた幸せ気分になぜかなりたり
- 3 月の1首
チェリストの表情ばかり見ておりぬ奏でる音に惹きつけられて
- 2 月の1首
来年もハミングバードは来るだろう赤いフィーダー綺麗に洗う
- 1 月の1首
わが宿のご近所さんと言うようにサンタ・マリアの大聖堂あり
2019年
- 12 月の1首
飛行機を三度乗り換えアメリカの南部の空港グリンズボロまで
- 11 月の1首
ジャコメッティの細き人ひとりしんと立ちまわりの空気もしんと静もる
- 10 月の1首
生きている証しのような赤き色少しはみ出す蕾の端より
- 9 月の1首
毛の長い新顔の猫のっそりと前庭過ぎる我見ぬふりして
- 8 月の1首
「アマリッリ・ミア・ベラ」歌う、また歌う、短いけれど難しい曲
- 7 月の1首
地図持たずフローレンスを歩くのは笑顔の人に道を聞くため
- 6 月の1首
アマリリスのメロディー奏で呼んでいるご飯できたとわが炊飯器
- 5月の1首
発声は2オクターブを目指します 先生の言う軽々と言う
- 4月の1首
フランスのパリの外れの地下鉄を降りてすぐさま道に迷えり
- 3月の1首
首長きキリンの視線の先にある記憶の中の緑の草原
- 2月の1首
珍しいハシビロコウという名前 漢字を考え考え歩く
- 1月の1首
教会に歌う歌声よく響きうねりの中に身を任せいる
2018年
- 12月の1首
ようやっと買えた貴重なチーズケーキ提げた袋に感じる視線
- 11月の1首
タンザニアのコーヒー豆を買ってみる遥か彼方に歌声のして
- 10月の1首
初めてのわたしのハイクが載った春うらうらと読むアンソロジーを
- 9月の1首
ゆっくりと腰を伸ばしてひねったり折ったりしたりヨガのレッスン
- 8月の1首
ゆったりと羽を広げて歌いたいこのドイツ語のアルトのパート
- 7月の1首
早朝の光の中のホバリング紅うつぎ観るハミングバード
- 6月の1首
嬉々として蜂鳥の行く灌木に花の咲くのを今年気づけり
- 5月の1首
初めてのタップシューズに慣れるためキッチン歩くカチカチ歩く
- 4月の1首
今年よりタップダンスを習います誰かがちょっと心配しても
- 3月の1首
手に入れた珈琲豆挽き美しき美術品のごと眺めて飽きぬ
- 2月の1首
着物着る機会ととらえこの宵を着物にて読む英語タンカを
- 1月の1首
ゆったりと時間の過ぎるダブリンをジェームス・ジョイス今日も見守る
2017年
- 12月の1首
オキーフの住んでいた街いまもなお巨大な花が咲いていそうだ
- 11月の1首
若き日の宮沢りえをモデルにし紀信の選んだサンタフェの砂漠
- 10月の1首
東京にただ一つ残る都電なりパンフレット持ち荒川線に
- 9月の1首
アレッポの石鹸買いて使いおりシリアの子供に笑顔戻れと
- 8月の1首
イタリアの歌曲を歌う練習日ゆっくり猫が脇を通りて
・7月の1首
マルセイユは海の街なりムール貝の海鮮サラダ今日もランチに
・6月の1首
脳内のどこかの部分が刺激され歌を歌うと鬱を忘れる
・5月の1首
オイスターというカード買いバスに乗り電車に乗りてロンドン味わう
- 4月の1首
カナダ国のパスポート持ち税関を通り抜けたり外人として
・3月の1首
ユーロよりポンドの方がいいらしいクィーンの横顔今なお若い
- 2月の1首
ため息や吐息聞こえてくるようなイタリア歌曲「ニーナ」の譜面
・1月の1首
ほったりと豊かな気持手の中に我の作れるマグカップある
2016年
- 12月の1首
コンコーネの音の連なり難しく同じところをまたつっかえる
・11月の1首
ラジオにて英語短歌の紹介をするなんてこと しかもライブで
- 10月の1首
初めての陶芸教室はじめてのコーヒーマグなり何度も撫でる
- 9月の1首
一目みて三省堂で買ったもの赤いガラスの鉛筆削り
- 8月の1首
鉛筆は2Bがいいと思いますトンボ鉛筆6本を買う
- 7月の1首
日系の百円ショップDaisoに出かけて探すおろし金ひとつ
・6月の1首
フィーダーにハミングバードついに来た窓越しに見る息を殺して
- 5月の1首
道祖神三十三体めぐりつつ時折見上げるあの世の空を
・4月の1首
少しずつ進歩していくヨガポーズ 少しずつがいい彼を知るのも
- 3月の1首
マグリット美術館なりドキドキとアリスのごとく不思議の国見る
- 2月の1首
甘いもの欲しくてひょいと入る店アルジェリア人の家族のお店
- 1月の1首
パリ発の日本語新聞読みて知る大杉栄の仏語スピーチ
2015年
- 12月の1首
片足でバランスを取り立つポーズ両手上げれば揺れ出す木なり
- 11月の1首
雨の降るアムステルダムここに住む人のごとくに運河を渡る
・10月の1首
にっぽんの奥ゆかしさを部屋に置く鎌倉彫の文机ひとつ
・9月の1首
雨のなか運河に沿って歩みゆく戦争の時も降っていた雨
- 8月の1首
アザラシの子もその母も聴いているアイルランドの海の子守り唄
・7月の1首
リヨンとはサンテグジュペリの生誕地まずは見に行く彼の銅像
・6月の1首
仲見世に買いし小さな招き猫福を招けよ友を招けよ
・5月の1首
スタバにて朝のコーヒー飲みながら饒舌になるわれの舌先
・4月の1首
卯月なりロビン目につく季節なりオレンジの胸さっそうと来る
・3月の1首
アンティークの小さなテーブル手に入れる清朝時代の折りたたみ式
- 2月の1首
セーターを着込んで来たりカナダより二月のハワイもあんと暑い
- 1月の1首
正月を祝わぬ国の元旦に食むカナダ産数の子昆布
2014年
- 12月の1首
大盛りの魚介どんぶり迷わずに注文したり築地市場に
- 11月の1首
咳をして麻酔はまだかと思うとき「手術終了」看護師の言う
- 10月の1首
もう少し肉を食べたらもう少し長生きしたか宮沢賢治
- 9月の1首
三頭の鹿がわたしを見つめおり草食系の穏やかな目に
- 8月の1首
明和(ミンウォ)というチャイナタウンにあるお店百年前も鍋や釜売る
- 7月の1首
空港の待合室には扉なく自由に風 も鳥も出入りす
- 6月の1首
マルセイユの海の青さに静もりて ル・クルーゼ鍋わがキッチンに
- 5月の1首
噴水に数羽の蜂鳥飛んでくる水も 飲むらしおしゃべりしながら
- 4月の1首
モロッコの人たちの食べるタジン鍋ひとり食べつつ旅するこころ
- 3月の1首
午前五時空港行きのバスを待つ向こうを歩くコヨーテ二匹
- 2月の1首
ああ、こんなことがしたいと思ってた一人で歩む二月のパリを
- 1月の1首
漢字にて書かるる店の看板がぐんと増えおりリッチモンドに
2013年
- 12月の1首
空港のフリーFiWi 利用して受信メールを読む旅の朝
- 11月の1首
わが部屋につつましく飛ぶ木彫の頭の平たいハミングバード
- 10月の1首
香水の名前とばかり思いいきわが少女期のヘリオトロープ
- 9月の1首
五年ぶりのマンハッタンは雨が降り雨もいいなと五番街ゆく
- 8月の1首
ミャオと言えばミャオと答える猫のいてしばし猫語で話してみたり
- 7月の1首
かの歌人の登りしというノートルダムわれも登りて怪鳥に会う
- 6月の1首
砂糖水満たし待ち居り夏の日を早く来られよハミングバード
- 5月の1首
スペインのどこかの広場で迷いたり夢の中よりあせったあの日
- 4月の1首
こんなにも薄きハムなりプロシュートあらためて見る透かしまた見る
- 3月の1首
スペインより戻りて好きになったものプロシュート・マジパン・サングリア
- 2月の1首
啄木が歌詠みしとき後の世に誰が読むのか考えたろうか
- 1月の1首
半分の柘榴を使うスムージーうす紫になめらかになる
2012年
- 12月の1首
サラマンカ大学の中歩み居り中世の石畳の上を
- 11月の1首
わたくしは時に猫なで声を出し近所の猫と挨拶かわす
- 10月の1首
声紋は指紋のようなものだろう世界に一つのわたくしの声
- 9月の1首
ノミの市2ユーロ出して買いしもの菫かわゆしドイツの小皿
- 8月の1首
カナダにて観る手拭いの展示会 再発見の日本の美なり
- 7月の1首
甲状腺手術は声を失うことも 執刀医より脅されて居り
- 6月の1首
八人が同時に動く太極拳テンポを合わせ気持も合わす
- 5月の1首
ヒョウ柄のゴム長靴の試し履き小雨なれども赤き傘さして
- 4月の1首
白ジーンズ見知らぬ人に褒められて海かぜとなり歩むリスボン
- 3月の1首
張りつめた声にて歌う海のファド漁の夫を待つ妻の歌
- 2月の1首
香り立つ赤き薔薇より作られしロザリオ買えり古きファティマに
- 1月の1首
風邪ひけば土鍋取りだし白粥をとろりと仕上げ青葱入れる
2011年
- 12月の1首
しゃぼん玉ゆらり流れる公園の陽だまりの中 風に色あり
- 11月の1首
ゲルニカの恐怖にゆがむ馬の顔 平和になれぬ国あまたあり
- 10月の1首
ゲルニカを小学生のグループが座りて観居りスペインの贅
- 9月の1首
楷書にてきっぱりと書く「心」なり心はいつも揺れているのに
- 8月の1首
ボランティア引き上げたあとの避難所の老齢者の顔テレビが映す
- 7月の1首
薄墨に仕上げたる雲たよりなく消え入りそうに我を見ている
- 6月の1首
ゆるやかに柳の葉より吹いてくる草書の「風」を部屋に飾れり
- 5月の1首
あの人はちょっと苦手な強情っぱりブルーベリーの蜂蜜贈ろう
- 4月の1首
万華鏡ひかりにかざす一瞬をくらりと動く紫の花
- 3月の1首
月光に洗われたる目にはっきりと彼の心の傷の見えくる
- 2月の1首
逢いみてののちの心の空白にけだるく崩るる芍薬の花
- 1月の1首
春を待つ心の中に舞いきたる高野素十の方丈の蝶
2010年
- 12月の1首
白鶴が翼広げる型という太極拳の立ち姿よし
- 11月の1首
筆架には筆の並びて静かなり眺める我の心を洗う
- 10月の1首
街に見るすべてのサインはフランス語ケベック人の意地の見せ所
- 9月の1首
怪鳥の大きな嘴 むらさきに蕾色づく極楽鳥花
- 8月の1首
言わないでおけばよかったいくつかの言葉浮かびて目覚める朝(あした)
- 7月の1首
原爆は戦争終結早めたと物知り顔に日本女性が
- 6月の1首
残りたるキャンティー飲めりほのぼのと昨日の昼のカレーパーティー
- 5月の1首
届きたるソルトレイクの絵はがきは塩の袋のおまけ付きなり
- 4月の1首
そろそろと触りてみれば意外にもさらりとしたる白へびの腹
- 3月の1首
あ、ブルージェイ わが目の前を歩きいる数秒のとき人に気づくまで
- 2月の1首
自家製のホワイトワイン貰いたり <シャトーやぎはら>ラベルもよろし
- 1月の1首
満作の蕾見えきて一月の寒き空気もやや和みたり
2009年
- 12月の1首
銀色の細き鍼打つ鍼灸師地図読むごとくわが背中読む
- 11月の1首
まぼろしの鐘の音(ね)ひびく耳のうちケルン去りてもドイツ去りても
- 10月の1首
真夜中に目覚むる日々の続ききて体内時計きしきしゆがむ
- 9月の1首
愛想よき陳さんなれど白人の客にはもっと愛想よくなる
- 8月の1首
なんとなく今日は隷書の気分なり ゆらゆらゆれるわが影法師
- 7月の1首
木苺の花白く咲きはにかんだ君の笑顔に恋した、うっかり
- 6月の1首
洗濯の終わりのメロディー聞きながら明日の予定を手帳に入れる
- 5月の1首
春の蛇わかき蛇なりほそほそと道を逃れて草地へ行けり
- 4月の1首
ティファニーの店はこんなに小さ かった? 映画の記憶とかなりずれ居り
- 3月の1首
偽物と知りて買いたるブランド品 ニューヨークには特別似合う
- 2月の1首
差別できる側に立つ人レイシズム否定していきわざわざ我に
- 1月の1首
ハングルのシャンプー、リンス解読し髪洗いたり釜山のホテルに
2008年
- 12月の1首
看板に韓国文字があふれ居り読んで楽しむ釜山繁華街
- 11月の1首
朝刊のオタワの雪を眺めつつアル バータの雪ちらと思えり
- 10月の1首
駅員も運転士さえ見当たらぬ近未来的電車に乗れば
- 9月の1首
パンはここ花はあの店少しずつ馴染みの店の増えきて九月
- 8月の1首
火曜日は普段使わぬ頬肉を激しく使いハングル学ぶ
- 7月の1首
この街はコスモポリタンの街だから居心地良くて声まで弾む
- 6月の1首
ハイウェイを車で走り道迷い見知らぬ街にときめきてくる
- 5月の1首
人間も車もわんと増えて居り十年ぶりのバンクーバーは
- 4月の1首
隣人に野の花のカード手渡しぬ引越し蕎麦のわたくし流です
- 3月の1首
かたつむり見つけたる日はゆるゆると倖せになり親切になる
- 2月の1首
あの道の角を曲がると一本の梅咲きて居き二月のかの街
- 1月の1首
「紅白」のビデオを撮りて安心す日本の皆に追いつくようで
2007年
- 12月の1首
レスブリッジの思い出語れと言われれば真冬に荒れる雪を食う風
- 11月の1首
身の裡で何かが泣いているようだ白百合のはな花粉こぼしつ
- 10月の1首
期待して何かを待っていることも少なくなりぬ短き秋の日
- 9月の1首
じんわりと汗滲みくる額なり湯につかりいてあるヒント浮かぶ
- 8月の1首
夕霧の静かに下りる草野原 前に進めぬ吾が立ちて居り
- 7月の1首
わが翼ゆっくり広げ放しやるこの 淋しさを夏の森にて
- 6月の1首
なによりも贅沢と思うカナダにて 食べる手作り白玉ぜんざい
- 5月の1首
教会のバザーに買いし手作りの饅頭十二個冷凍保存す
- 4月の1首
今年またパセリ芽吹きて春となり陽の中セリセリせり上がりくる
- 3月の1首
ケンタロウのひとりごはんのレシピまね春のキャベツをどんと茹でたり
- 2月の1首
突風にひっくり返る大トラックの写真横目に朝食終わる
- 1月の1首
風も無く晴れ渡る朝あの枝もこ枝も笑いだしそうな朝
2006年
- 12月の1首
バスタブに四肢を伸ばしてゆうらりと翼を広げ鬱放しやる
- 11月の1首
新しきスタートラインに立つ朝は今日の運勢新聞に読む
- 10月の1首
口中にほのかに残るにが瓜の苦味惜しみて茶を飲まず居り
- 9月の1首
来年も夏の来ること疑わず矢車の花種を結べり
- 8月の1首
ハイクほど知られていないタンカなり五行詩の美をいかに伝えむ
- 7月の1首
池に入れし小さき蛙のそののちを時に思えりふた夏過ぎても
- 6月の1首
琥珀色の切子グラスに梅酒酌み豊かな気分になりて眠れり
- 5月の1首
まさかまさかこんな所に来るなんてハミングバードが庭の赤き花に
- 4月の1首
春の日は心も軽く念願のお菓子のレシピ試してみよう
- 3月の1首
トランクに重石と思い乗せおくは十キロの米二袋なり
- 2月の1首
氷点下二十六度とラジオ告ぐ一月十日の最高気温
- 1月の1首
餌付けなどしないと決めて雪庭の鹿を見ており冬の早朝
2005年
- 12月の1首
氷点下三十三度に風の吹き体感温度はあわれ零下五十度
- 11月の1首
マリアンの英語短歌をイギリスの子供が歌う作曲されて
- 10月の1首
敢えて吾は無謀と知りつつ英訳す河野裕子のオノマトペ短歌
- 9月の1首
失明は誤診と分かり口ずさむフニクラフニクラ パセリ摘みつつ
- 8月の1首
新幹線待つ間に食べるひいやりと東京にはないずんだかき氷
- 7月の1首
ほんのりと甘き帆立ての肉を食む松島の昼の海鮮どんぶり
- 6月の1首
あんな風に漢字書けるかわたくしも条幅紙展べしんと立ちたり
- 5月の1首
英語にて短歌を作る人々は俳句も作り器用なりける
- 4月の1首
華やかな桜前線羨みつつ今日も見ている日本のテレビ
- 3月の1首
ひな祭り五日過ぎても雪の降りカルガリーへの道こわごわ走る
- 2月の1首
道路わきに一頭の鹿の待ちて居り車の途切れて横断できるを
- 1月の1首
雪のない大晦日なり初春という日本語われに優しく響く
2004年
- 12月の1首
夕暮れの牡鹿大きな角を持ち哲学者のごとき静けさに立つ
- 11月の1首
バスルート遠回りなりあちこちと見知らぬ街を抜けて我家へ
- 10月の1首
米国の原爆使用の是非を問うクラスの中に一人アメリカ人
- 9月の1首
ミグレーヌとフランス語にて呼ばれいるこの偏頭痛まさに魔女なり
- 8月の1首
裏庭を大きなスカンク散歩する白夜の夏の午後十時なり
- 7月の1首
地図持たず京都の町を歩みきて寺町通を本能寺に出る
- 6月の1首
蟻の来る蕾はきっと花開くわたしの芍薬蕾ふっくら
- 5月の1首
木に高くヤマアラシいて人の声に 針をかかげて怯えていたり
- 4月の1首
雀追い駒鳥追いて鵲(マグパイ)の二羽が大きく枯芝歩む
- 3月の1首
戦争を知らぬカナダの学生に敢えて見せたり「黒い雨」の惨
- 2月の1首
小筆にてひらがな書けばわが裡に眠りいしものさわやかに目覚む
- 1月の1首
雪の夜に小さき動物来たるらしわが庭横切る足跡へこむ
2003年
- 12月の1首
家の戸に異教徒なれど掛けてみる赤いリボンのクリスマスリース
- 11月の1首
神田川に「魚釣るな」とあるを見て覗けば居りぬ大きな鯉二尾
- 10月の1首
鮮やかにわが苛立ちは癒えておりハイビスカスの花の落ちた日
- 9月の1首
カタカナの名札作りて手渡せばク ラスの皆が嬉しがりたり
- 8月の1首
野球帽かぶれば若き心地して ショートパンツに履き替えて行く
- 7月の1首
地平より地平へと続く虹の橋初めて見たり大平原(プレアリー)に住み
- 6月の1首
芍薬も鈴蘭も白、姫りんごの花も白なりわれの身巡り
- 5月の1首
日本語が聴き取れなくて慌ており 学生に借りし宇多田のCD
- 4月の1首
雪消えし後にすっくり青き芽立つ 卯月四月はチューリップ月
- 3月の1首
和食器の店にて働く白人の日本語良しと日本人われら
- 2月の1首
今日もまた零下二十度今日もまた外に出られず欝の降り積む
- 1月の1首
白き紙広げておりぬこの中に入り 込めるか筆を下ろせば
2002年
- 12月の1首
行きゆけどゆきゆけど雪アルバー タの大地を北へバス走りゆく
- 11月の1首
日本語の授業の後に母親の小言のような注意をしたり
- 10月の1首
オーロラを眺めた夜の眼(ま なこ)には全てのものが美しく映ゆ
- 9月の1首
新しき筆をおろせば筆先に弾力ありて指に伝わる
- 8月の1首
漱石の書簡集読む漱石にわが身見ているロンドン便り
- 7月の1首
ふくろうがゴロスケホッホと鳴いていた昨夜のことが朝の話題に
- 6月の1首
バッファローの親子がゆっくり道渡る我はわくわくブレーキを踏む
- 5月の1首
iBook(アイ ブック)の機能のあれこれ試しつつ妹に送る電子絵はがき
- 4月の1首
ベンはいつも「便」とテストに名前書く「勉」という字を知りながら書く
- 3月の1首
絵葉書の白き桜に見入る耳朶にうなりうなれるレスブリッジの風
- 2月の1首
氷点下十五度までに上がりたる今日の気温に気持ち緩みくる
- 1月の1首
地に積もる雪白々と輝きて新しき年に人は踏み出す
2001年
- 12月の1首
ネイティブが雪食う風と名付け いるシヌック吹きて雪飛ばされる
- 11月の1首
紅き花貰いたるごと嬉しくてまた出して見る夏の花の種
- 10月の1首
風鈴のような小さき音を乗せ秋の風吹くひそやかに吹く
- 9月の1首
前庭に大きなうさぎ見たる朝秘密持つごと華やぎてきぬ
- 8月の1首
八月の朝市さわさわ嬉しくて向日葵の花いくつも買えり
- 7月の1首
四頭の鹿と出会いて立ち止まり見合いたるのち道ゆずられぬ
- 6月の1首
真っ白いガーデンチェアー二つ置くただそれだけで夏の来る庭
- 5月の1首