鵜沢梢の短歌

                                             

                                               今月の短歌をどうぞ

私の所属しております短歌結社誌「心の花」(佐佐木幸綱主 宰)に発表された短歌、または選にもれたものから毎月その月に合ったも のを選んで1首ずつお届 けします。

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  • 6月の1首

脳内のどこかの部分が刺激され歌を歌うと鬱を忘れる

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*2012年度「コム・ソフィア賞」最終選考候補にノミネートされる*

短歌とは直接関係はありませんが、私の母校である上智大学より国内外で活躍する卒業生に送られる賞の最終選考候補の7名の中に入りました。これだけでも名誉なことです。

http://www.sophiakai.jp/blog/cumsophia/2012/05/ 

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    パリ行き            「世界樹」2015年  32号 掲載より                 

安き宿ネットに探せば今年またモンパルナスのホテルがあがる

パリ行きも二度目となればお手軽にポンと決めたりこの古き宿に

目の前にアパルトマンの窓がありいつも引きおく宿のカーテン

朝ごはん去年のホテルと比較してバゲット固しと点数さげる

六月のパリを歩めり墓地までをボードレールの墓ありと聞き

サルトルもボードレールも見つからず墓地を出で来ぬ青葉の午後を

地下鉄を乗り継ぎ寿司屋に来たりけりこれから会える日本人四人と

四人とも短歌の仲間フランスでこうして会ってこうして話す

シャンソンのコンサートあり美帆さんの歌声澄みてvivreと唄う

俳人と季語のあれこれ話し合うパリ郊外の有機農園に

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   涼しき夏       「短歌往来」2015年8月号 掲載より

 

日本にて見つけし空蟬飾りおく カナダの夏に蟬声あらぬ

蜂鳥はカリフォルニアが大好きだカナダにもっと来てほしいのに

赤い花めがけ飛びゆく蜂鳥がわが耳の横一瞬かすめる

この次は赤いガラスのフィーダーに寄り道してねハミングバード

海岸に打ち上げ花火待つわれら十時になるまで暗くなるまで

まだ来ないまだ来ないぞと待っているカナダの夏は九時でも明るい

中国の新移住者が好きと言うバンクーバーの涼しき夏を

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      「短歌研究」掲載の作品、その他

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「かたつむり」(作品10首+エッセイ)7月号(2013)最近、心に残った歌特集 (渡辺松男のかたつむりの歌を選びました)

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まひまひの生まれたばかりの子の背にも貝がある、痛々しいではないか

                         渡辺松男 『蝶』


最近、庭で赤ちゃんかたつむりを見つけた。五ミリ位の大きさなのにちゃん

と背に丸い貝をつけている。赤ちゃん蝸牛を見るのは初めてだったので、と

ても感動した。歌を作ってみたが、あまりうまく感動が表わせなかった。そ

の時に偶然この歌に出会った。「痛々しいではないか」にうなった。なんと

適確に私の言いたかったことが言えているのだろう。

 

  かたつむり


ローレルの葉についている蝸牛の子生まれたばかり母さんはどこ?

赤ちゃんはたったの五ミリ・すでに背に丸き貝もつ健気ではないか

かたつむりのコロニーらしい、ローレルの茂みの中に今朝見つけたり

かたつむりの家族が数多住みているローレルの中ほの暗く湿る

蝸牛の子の貝つきの背は痛々し渡辺松男の歌よみがえる

生まれるとすぐに一人で住む蝸牛小さき背中に小さき貝つけ

母さんは子をどれくらい生むのだろう赤ちゃん蝸牛に兄弟いるか

ナメクジは日本とカナダ違うけど蝸牛は同じ大きさも色も

かたつむりの殻ころりんと落ちている花壇の脇に色あたらしく

三匹も蝸牛貼りつく植木鉢雨降り続く四月の朝(あした)


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「正月を祝わぬ国の元旦に食むカ ナダ産数の子昆布」&ショートエッセイ:1月号(2013)現代歌人百人一首特集:お国自慢


『シヌック・雪食う風』(栗木京子、大島史洋、田口綾子による鼎談批評)7月号(2012)
作品季評


「英語の啄木」(好きな啄木の歌1首をあげ、それにまつわるショートエッセイと返歌1首)6月号(2012)石川啄木特集

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第2歌集『 ヌック・雪食う風』短歌研究 社・ 2012年3月)

Scan 2


第1歌集を出してから知らないうちに14年も経っていました。1998年から2011年にかけて「心の花」に掲載された歌から約500首選び出しテーマ別に再編成しました。お読み頂けると嬉しいです。

なお「心の花」の武富純一さんが素晴らしい書評を書いて下さいました。
こ ちらからどうぞまた、「短歌研究」7月号(2012)では、作品季評にとりあげられました。評者は栗木京子さん、大島史洋さん、田口綾子さんでした。

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2007年度「心の花」年間選者賞〔石川不二子選〕受賞 作品


シヌックはSnow Eater雪食う風びゅるるんびゅるると雪巻き上げる

ネイティブがシヌックと呼ぶ強き風雪溶かすゆえ歓迎さ れる

ロッキーを越えて吹き来る暖かき風、と言えどもやはり 寒いなあ

シヌックの瞬間風速九十キロ激しきうなりひと晩続く

一日中吹き荒れる風激しくてぎしぎし気持ちも閉じこめ られる

風寒く吹き荒れる日は買い物にも出かけず一人繭ごもり 居る

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歌集「カ ナダにて」より

歌集「カナダにて」より私の好きないくつかの短歌を

再編成してお届けします。なお、この本は絶版になりました。

これは1998年に東京の新風舎より出版されたものですが、

この中の一首が朝日新聞、大岡信の「折々のうた」に取り上げられ

のちに岩波新書の「新折々のうた5」の中に収録されました。

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習いたる日本語どれもていねいで馬鹿にされるとマイケルこぼす

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       インター ネット

じじじじと秋の虫鳴く声を出しコンピュータは機嫌良く居る

Eメールの発信時刻は六時半朝靄かかれるトロント見えくる

アメリカの議会図書館呼び出してかの夢探すインターネットに

翌日の日本のニュース読みて居り予言のごとくインターネットに

一台のコンピュータにて世界中とつながれてることなにかうそっぽい

           

          われの存在

ふるさとはとおくにありておもうもの日本に行きて疲れて帰る

日本にはもう住めないと思い居る考え方のずれの増しきて

わたくしは日本人だと思えども日本にて知るカナダ化の部分

日本ではアウトサイダー、カナダではマイノリティーのわれの存在


            花火

メモ帳に花火の時刻確かめてそわそわと待つ日の暮れゆくを

海岸に花火見るため歩きゆく人の流れにわれも乗りたり

日の落ちて暗くなりゆく数刻を長しと思う花火待ちわび

次々に開く花火の生命(ヴィ)の色その裏にある闇も見て居り


  赤きサルビア

アマリリスかっと開きて驕慢な女二人が競い合うごと

離婚せし男と坐るレストラン赤きサルビアわが目にするどし

大きめのピザひと切れの昼食になにか足らざる思いのつのる

鬱の日は空気となりてねむりたしねむの木に咲く花をまくらに

    うつぎ

噴水のみず高々と噴きあがり学生らみな輝きて見ゆ

授業終えはつ夏の道帰る時卯の花らしき花香り来る

うつうつとうつぎの花の香りきて出せざる手紙わが胸に持つ

ちぎり絵の朝顔の花ほの赤く日本の花を恋えり水無月

   ある夏に

習いたる日本語どれもてい ねいで馬鹿にされるとマイケルこぼす

はつ夏の木苺の花白く咲く シャイな学生のはにかみに似て

ぐんぐんと夏雲の湧く青い 空予感いくつか形なしゆく

かなかなのかなしき声のま じり居り日本にて採りし録音テープ

雷鳴の遠ざかりゆく夏の夜 遅き夕餉にダークチェリー食む

  るるるる

支えられ支えて「人」は成 り立つと漢字教えつブライアン君に

窓に来て五月の燕るるるると鳴き始めたり夏呼ぶ声に

小雨やみ明るき午後のひとときを心の裡の窓ガラス拭く

花びらが風に乗るごとフ ルートのかすかな音が風に乗り来る

赤ちゃんの小さき寝息思わ せてかすみ草咲くわれの午睡に

火をふたつ持つ虫と書く 「螢」なり字を眺めつつほうたる恋えり

  ハミング

耳慣れぬ陰音階に魅かれ聴 く「島唄」という沖縄のうた

しじみ蝶飛ぶがに花びらあじさいの押し花置きて絵葉書作れり

街角に貰いし広告風船の明るき赤にハミング湧き来

買いて来し青菜に菜の花咲きおれば切りて活けたり益子の猪口に

菜の花は光に向きて伸びて ゆくわたくしもまた光に向きて

 青きロべリア

空高く風渡るらしさわさわとポプラさわぎてとおせんぼする

久しぶりに花を買いたり七 月の陽差しのごときグラジオラスを

求めこし苺を洗う昼下がり東京の苺値の高かりき

起きぬけにジャズを聴きいる日曜の雨の朝(あした)にロべリア青し 

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茶道誌『淡交』歌壇 1994年1月号

(1993年に投稿した短歌が年間最優秀賞に選ばれました。選者は佐佐木幸綱先生でした。)


  茶室よりいでて初めて気がつきぬ非日常なる時流れしを


幸綱先生からは「茶室で味わった、日常では味わえない充実の時間、夢のような透明な時間をうたって、印象深い作でした。」というコメントをいただきました。

© Kozue Uzawa 2014